『母親になって後悔してる』を読んで

 

 

『母親になって後悔してる』

このタイトルを見たとき、ちょっと衝撃的だった。そんなことを本のタイトルにしていいんだろうか!という恐怖と、少しの喜びがあった。私は母親になりたくない女の一人だからだ。

同時に少しの怒りも覚えた。私を産んだのはあなた(たち)じゃないか、産んでおいて後悔なんてひどい!と。

中学生の時に子育ての本を読むのが好きだった。子どもを叱るときはこんな風に、ほめるときはこんな風に…それを読んで「自分の子どもを育てるときは、絶対に両親のようにはならない」と自分をなぐさめていた。

両親がお互いの悪口を言うようになって別居し、離婚をしてから、私は自分には価値がないとより一層強く感じるようになった。なぜなら、愛し合って産まれた私なら愛されて当然かもしれないが、両親が憎みあっているいま、憎んでいる人の遺伝子を継いだ私などもはや両親のどちらにとっても必要ないだろうと感じたからだ。

それからは子どもを持つことに消極的になり、「自分は子どもを産まないだろう」、「自分は子どもを産まないべきだ」と考えるようになった。

 

「なぜなら、一般的に女性、特に母は、さまざまな状況下で、自分自身を脇に置き、忘れることを何度もくり返し求められているからだ。女性が過去を思い出すことが、とんでもないと見なされる理由について、再考する必要があるのかもしれない。女性は、忘れるように求められてはいないだろうか─自分の知識や思考や感情から離れなさいと─そうすることで、社会が不正を生み出し続けると同時に、すべてが順調だと偽っている可能性はないだろうか?(p,288)」

 

この本では、すでに孫がいる人、働いている人、親に暴力を受けていた人、裕福な家庭で育った人、夫のサポートがある人、子育てにサポートが足りないと感じている人などさまざまな立場の23人の女性に話を聞いている。

「今の知識と経験を踏まえて、過去に戻ることができるとしたら、それでも母になりますか?」、「あなたの観点から、母であることに何らかの利点はありますか?(利点は欠点を上回っていますか?)」という2つの質問に「ノー」と答えた人にインタビューしている。

”母になったこと自体”を後悔していて、子どもたちのことは愛しているという人もいれば、子どもを生み出したことを後悔している人、母になる必要性を感じられないという人もいる。

そして、貧困・差別・マイノリティであることで子育てに困難を感じている人、サポートが得られなくて辛いと感じている人、地球上で自分が一番裕福で子育てをサポートしてくれる環境があっても子どもは産まないだろうという人もいた。

この本を読んで、子育てというものは方向転換することが非常に難しいと感じた。仕事であれば、数年続けて自分に合っていないから転職するという道もあるし、資格をとって全く違う職業についたり、休職したり、上司にお願いをして仕事の量を調整したりポジションを変えてもらったりすることが可能かもしれない(もちろんそれができない職場もあるが)。

しかし子育ては、自分に合っていなかったからという理由で辞めたり、男女を育てていて男の子を育てるのは向いていなかったからこれからは娘だけ育てる、というわけにはいかない。数か月のあいだ親をお休みする、というのも施設を探したり親に頼んだりしなければいけないし現実的な選択肢としては考えづらい。

母親になって後悔したとしても、もっと社会的な支援が充実していれば後悔する人はずいぶん減るのではないだろうか。問題なのはこの人たちではなく、そう思わせてしまう社会構造なのではないだろうか。

私が母親になりたくないことや自分では育てきれないと感じることも、性差による役割分担も、個人だけの課題ではなく社会の構造の課題ではないだろうか(と同時に社会のせいにするなと言う自分がいる)。

 

私の友人にも子どもを産んだ人がいる。

若くして産んだ人、複数人の子どもがいる人、シングルマザーの人。彼女たちに私が子どもを産むかどうか尋ねられたこともある。産んでいない友人と子どもを持つことがこわいと語ったこともある。

子どもを持つ友人に対して勝手に裏切られたように感じることもある。けれど、子育てを誇りにしている人を馬鹿にするなんて絶対にしたくない。

私は反出生主義とまではいかないし、フェミニストを名乗れるほど知識や公平性があるわけでもない。女性も男性も弱者も強者も、権利やチャンスを持ち、お互いを脅かさないように努めるべきだと思う。

私は子育てしている人を異質のものとして扱いたくないし、誰かを批判しすぎて本質を見失うこともしたくない。過剰に男性が悪いともいいたくないし、女が我慢すべきだと思わない。権力者が何かを操作しようとしているのを見極めたいし、権力者であっても持てる者の義務を果たす人には敬意を表したい。

 

自分が置かれている立場や、こうなりたいと思う自分について考えることのできた1冊だった。勇気ある女性たちと筆者と訳者にお礼を言いたくなった。ありがとうございました。

『母親になって後悔してる』新潮社/オルナ・ドーナト 著/鹿田昌美 訳