去年、椎名林檎のライブに行った。ライブ中はキャバレーにいるような気がした、行ったこと無いけど。キャバレーやストリップに行ったらこんな感じなんじゃなかろうか(雰囲気がエロティックで、ひたすら派手だったという意味で)。
私は結構良い席がとれて、物販で買ったばかりのTシャツに着替えてワクワクしていた。ドライアイスのような煙が立ち込めるなか、着物を着た人ややたらとおしゃれな男性が行き交っていた。私の後ろに三人組が座った。男二人と女の子。彼らは大学生のようだった。男一人が先輩で、あとの二人は後輩のようだ。先輩の声が大きいのでつい話を聞いてしまう。
「俺さ、東京事変の解散のとき泣いたもん武道館で」
ああ、この人は武道館に行ったのか。私はライブビューイングで見た。
その後もずっと先輩はしゃべっていた。彼は名前にさん付けで呼ばれていた。
ライブが始まってからも彼の出す音は大きく、拍手も、「りんごー!!」「ひゅーーー!」という声も、耳の奥にどんどん入ってきて嫌だった。
私は彼のことが嫌だった。それは彼のマナーが悪いとかではない、決して。確かに声が大きいのは好きではないけど。
彼の楽しみ方は私とはあまりにも違いすぎた。
こそこそと音楽を聞く私。ライブに来る友達がいない私。うまく応援の出来ない私。「りんごー!」と叫べず、彼女の歌う姿に感動して泣くしかない私。
ライブが終わったあと、しばらく放心した。ライブ中に会場に落ちてきたキラキラした紙を、できるだけたくさん拾ってバッグに詰めた。けれどこの感動も少し経てば忘れてしまうのだ。悲しくなった。
そして私はいま、椎名林檎の美しさや凄さや自分の感動よりも、後ろに座っていた彼のことを書いている。
自分が涙を流せた人間だということをもっと誇りに思えばよいのに。