いまきみとセックスをしたい

できることならいまきみとセックスをしたい。そしたら全部、少なくとも今はつらいことを上書きできるから。かき消していこうよ、一緒に。

そんな誘いに乗って僕は東京で女の子と会ったのだ。その子は自信がなさそうで不美人で、服装だけは妙に挑発的だった。

「セックスしなきゃ終わっちゃうんだよ。しなくてもずっと生きてられるとは思わないけど私なりの延命措置なんだよね」

「将来死ぬつもりなの?」

「死ぬつもりっていうか、私みたいのが生きていけるって思えないんだよね。社会とか世界って言われるものに適合できない、と思う。私なりにいまやってるつもりなんだけど、どうせ死ぬんだなって思うと、いろんなものが削がれていって…結局こういう安易なことになっちゃう。でも良いって思ってるよ」

「僕はそこまで死ぬとかは考えてないけど、セックスせずに終わる人生は嫌だったし、なんか僕が関わることによって…変えられたらとか、虫がいいけど」

「ねえもういいよ、早くしよう。時間はたくさんあるけどないんだよ。もう切羽つまってんだからさ」

 

結局セックスになっちゃうんだね。会話や言葉や目線では終わらないんだね。癒やされたいし、救われたい。本当はセックスなんて誰もしたくないって私は知ってるよ。そんなに楽しいもんじゃない。驚きも最初のうちだけ。ゲームや映画の方がよっぽど興奮するよ。でもそれじゃだめなんだ。嫌いだけど気持ちいいことするのが私には一番良いんだ。だからやめないよ。いつか死ぬまで小さく死に続ける。

しかし夜、よる

気づけば一月以上も書いていなかったのだ。最近は毎日家事をやっている。かぼちゃの煮つけを作ったり、洗濯や掃除をしたり。少しずつリズムを作っていっている。以前の自分からは考えられないような(それでも普通の人々に比べればだらけているが)生活。

しかし夜、よる。専属の売春婦みたいな気分になる。私は愛玩具のような気がする。私は何も生産せず生きている。私は誰かとのスリリングなことを求めている気もする。心と身体がばらばらになる瞬間があって、けれど完璧にばらばらになってしまえば楽だと思う。私が私を否定するのをやめてくれない。

けれどこの生活には起伏が無く、私は本当に楽だ。満足したことなんて一度もないような気がするから、これが最上の幸せにも思える。

もう何も考えなくていい。私は生産者でも消費者でもなく、ただ生きている。いや、死を待ちながら生きている。ずっと待っている。

 

最近すべての男たちの夢を見る。

ずっと降り続いて欲しいと思う

雨の日は家の周りが静かになるから好きだ。こんなどしゃぶりの日に外出する用がなくて良かった。夕方には夕飯の買い出しに行かなきゃいけないけど、と二度寝を決め込む。目を覚ますと開け放ったままの窓から、雨が降り込んでいた。失敗、失敗。

対して動いていないのに腹は減る。お昼を食べて、文章を読む。知らない映画、聞き取れない外国語を流しながら、また時間は過ぎてゆく。

私のしていることは売春となんらかわらないのではないかという考えがよぎる。私の果たすべきことをちっとも果たしていないように思える。世の中の女性は偉大だ。働いて朝起きて、仕事に行き、帰ったら家事と子供の世話が待っている。

私はどれかひとつでもできたら上出来だ。一日にひとつのことしかこなせない。「こんなでいいんだろうか、そんなわけないだろ俺 なんでここで涙出る」。歌詞が沁みる。

こんなんでいいわけない。でもそれをとがめない人がいる。恵まれている。このまま感謝しながら、お荷物として生きるのだろうか。プライドを持つなということか。いや、そんなもん最初からくだらない。私のプライドなんかなんにもならない。実力はないのに、見栄っ張り。人になめられないことが最重要事項になりかけている。

このまま生きてる理由は何だ。人の役に立ちたい。人並みにいろんなことをやりたい。私は女だから許されている。私は男だったらもっとつらい立場にいたはずだ。私と同じような男性に申し訳ない。なぜ私は女というだけでこの環境を享受しているんだ。

積み上げられた本を眺め、こう見られたいというコンプレックスがあらわれているなと思った。読んだことのない難しい本、文章を書くための教本、純文学、詩、名だたる作品たち。一体何と闘っているのか、私だってそんなことは忘れてしまった。

一番安定していて欲しかった居場所を手に入れたはずなのに、思考グセは治らない。何を求めている。何を手に入れれば満足なんだ。

雨がやんでいる。皆が家から出てくる。ずっと降り続いて欲しいと思う。

怖がる人の代わりに虫を殺す

二ヶ月なんて期間はあっという間に過ぎ去ってしまって、自分が誰を好きだったのかも思い出せないくらいだ。私は何を好きだった?何を大切にしていた?二ヶ月前の感情を明確に思い出せる人はいますか。

 

念願の場所に来ているわけだけど、家の中を整えるのに精一杯で、ほとんど外出していないから、心の動きも少なく、イベントも発生しない。ゆえにストレスも少ないという非常に穏やかな状態が続いている。ネックは太ることかな。でも本当に、あんまり外に出なくても平気な人間なんだな、自分はと思う。

 

いろいろ書きたいことがあったような気もするが、何もなかったような気もする。だってイベントがないんだもの。毎日ご飯を作ったり、虫を怖がる人のために代わりに殺してあげたり、洗濯したりだよ。本当にそれだけ。昔は逃していたんだけど、それじゃ追いつかなくなっちゃった。

 

死についてはうっすら心の底を流れているものの、その水が大きく揺らぐことはない。こちらに来てまだ一度か二度くらいだ。ラッキーだと思う。

しかし家の中にいたのではどこに住んでいようと変わらないので、そろそろ外出したいと思う。でもマップが広大すぎて、一体どこに行けばいいのか、行きたいのかがわからない。私、ここに来て何がしたかったんだっけ。何で生きてるんだっけ。

外出するとかなり体力を使うので、家のことがおろそかになることへの恐怖心もある。一日外出を楽しんでも、家事ができなければ自分は本当にだめな人間に思える。生きている価値などとまた考えてしまう。それが怖くて、もう何もできずにいる。体力も精神力も足りなさすぎる。

 

しかしこちらに来てから、夜に泣きながらお気に入りの文章を音読するということも無くなった。この状態がずっと続けばいいな。

六月はとにかく外に出たいと思う。最寄りの駅でもいいから、何かをしに。

私は春から、あなたじゃない人と生活を始めます。

あなたのこと、すごく好意的に思ってるから、どうか幸せになってね。私たちはだめなところが似ているね。だめなところが似ていると、だめなところを許し合って認め合えてしまうから不思議だね(嫌悪してしまうこともあるけど)。

あなたの言っていた小説を読んだけど、本当の意味はわからないまま。また次に会った時に聞けるといいな。

 

私は春から、あなたじゃない人と生活を始めます。自分で決めたことだし、ずいぶん前からの計画だから、破るわけにはいかないんだ。それに、誰とどこで暮らしても結局私は私だから、何かが一気に変わることはないの。だから、だからこそ大丈夫なの。

 

あなたは春から、自分の夢を現実にする。楽しいことがあったら知らせて欲しいけど、それはきっとわがままなので、また機会があれば。

 

あああ、美しくおもしろおかしく暮らしたい。馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいにセックスして生きていきたい。美しい女の人と美しい肉体を重ねて、あたたかな日差しを浴びて、昼寝をしたい。ふかふかな枕を二人でわけあって、小さく微笑みながら眠りたい。庇護されていたい。本当は全部、死んだらいい。