好きな本の好きな部分を引用

そんな感傷的な場面でも、ミス・ブラックモアはミス・ブラックモアである。いつも通り威厳に満ちた態度で「My girls!」と呼びかけ、卒業生ひとりひとりの顔を厳しい表情で見回し、ブラウニングの詩から「我と共に老いよ 最上のものはなお後に来たる」の一節を引いて続けた。

「今から何十年後かに、あなたがたが学校生活を思い出して、あの時代が一番幸せだった、一番楽しかった、と心底から感じるなら、私はこの学校の教育が失敗だったと言わなければなりません。人生は進歩です。若い時代は準備のときであり、最上のものは過去にあるのではなく、将来にあります。旅路の最後まで希望と理想を持ち続けて、進んでいく者でありますように」

 

『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』村岡恵理/新潮文庫/p,106-107

 

よく子どもの時に戻りたいとか学生時代の時に戻りたいという言葉を耳にする。その気持ちはわからなくもないが、結局今が一番自由に生活できている気がするので、私は戻りたくない。生まれ変わりたくもない。これからもっとよくなるのではないかと信じていたい。

 

――「彼女とは手を握っているだけでいい。これ、わかるかなあ。手を取り合っているだけで満足なんてことがあると思うかい? 動きはなくても心は伝わる。そういうことさ。その夜いろんなことが起こっても、こういうことが一生記憶に残るんだ。手をとりあうことが、それ以上の意味を持つ。

<中略>

そうして一夜を丘の上で過すわけさ。こういう発想はどこか間違っているかな、正直にいってほしいが、どこか間違っているところがあるかい?」

「ない」とひとつの声。「そういう夜の間違っているところは、きみには帰らねばならない世界があるということだけだ」p,12-p,13

 

人生には一夜だけ、思い出に永遠に残るような夜があるにちがいない。誰にでもそういう一夜があるはずだ。そして、もしそういう夜が近づいていると感じ、今夜がその特別な夜になりそうだと気づいたなら、すかさず飛びつき、疑いをはさまず、以後決して他言してはならない。というのは、もし見逃せば、ふたたびそういう夜が来るとはかぎらないからだ。p,18-p,19

 

『二人がここにいる不思議』レイ・ブラッドベリ/伊藤典夫訳/新潮文庫/「生涯に一度の夜」より

 

生涯に一度とまでは言わないけれど、私もチャンスを逃してしまったことがある。私には帰らなければいけないところがあったから。

だが、帰る場所があるからこそこんな妄想をして楽しむことができるのではないかとも思う。

 

いま本棚を整理しているのだが、必要ない本が全然なく、折に触れて読み返したいものばかりで困っている。10代で読む太宰と30代で読む太宰では違うだろうし、以前頻繁に読み返していたけど最近あまり読まないものもいつ熱が再燃するかわからないし…。

漫画全巻とかラノベ全巻とかが幅をとっているので、それを処分するといいのかもしれないがそんなことできるわけないのである…。

そして、本棚を整理したのを良いことに、「あ、これ買おう」とまたすぐ本を買ってしまう阿呆がそこに誕生する。