春を持つ人

思い出に浸るのは気持ちいいけれど、心が痛い。あなた、と呼んでくれたあの人のことを今でも夢に見るのは、未練からか、若さへの執着か。

もう何年前になるだろうと膝の上に数字を書き書き、思い起こしてみればあれは3年前…止めるあなた駅に残し…というわけではなく電話口で振られたのだった。その頃の私は今よりもっと不安定な女で、傲慢だった。

彼は私のことを「あなた」とか「先輩」と呼んでくれて、こんなに愛おしい人が私のことを呼んで、私が応えるのを待っているということをいつも誇らしく思っていた。

付き合っている間はとても幸せだったけれどそれ以上に苦しかった。自由に会えない、出かけられない。お金がそんなにあるわけじゃないし、住むところも離れている、不自由な恋愛にいつもいらついていた。

なんにもうまくできなかった。別れてからしばらくは後悔ばかりで自責感情が牙をむいてぐるぐる唸っていた。

しばらくすると今、彼はどうしているのかが気になり始めた。幸せになっていてほしいなあと思い、今現在彼女でもいたら私は完璧に失恋することができて彼を思い出さなくなるかもしれない、彼も私のことなんて気にせずに恋愛して美味しい物いっぱい食べて、出かけて、音楽を聴いて、楽しく生きていってほしいと思った。けれど心の中で、今でも自分のことを覚えていてほしいなと感じている気がした。

もしどこかで偶然出会って、彼が私に微笑みかけてくれたらどんなに良いだろうと何度も空想した。そしたら音楽の話をして、いやまずは近況を聞いて、それからそれから…。

 

思い出さなくなったことに気づける日は、来るのだろうか。

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