直子という女

 鏡に映る自分の裸が日に日に女らしくなっていることに直子は気づいていた。ドライヤーをかけ終わった髪の毛を優しくブラシしながら、自分の裸をまじまじと見つめた。乳房が以前より膨らんでいる。それに、全体的に体が丸みを帯びてきた。小学生の頃に見た保健の教科書みたいに、本当に女の体は丸くなっていくのかと直子は感心した。男性の体よりも丸く、柔らかく。しかし体の変化は直子にとって受け入れがたい物だった。女になるということに恐怖を感じていたし、体だけ育ってしまった自分のことが嫌いだった。年齢と肉体だけは大人になり、心は子どものままでいる自分のことを、直子は今すぐにでも殺したいと思っていた。いや、殺したいというよりもいたぶってやりたいという気持ちだった。もしもうひとりの自分がいて、彼女が目の前に現れてくれたなら、自分の心が何もかもについていかないことを言葉で責めたてて、体を傷つけてやりたいと思っていた。

 昔から、自分を責めることで安心する人間だった。同級生の女の子にいじわるをされたときは自分が弱い人間だからいじめられるのだと思ったし、言葉で傷つけてくる人がいても、自分がその言葉に傷つく弱い心を持っているのだからいけないのだと考えていた。 

 ブーンと携帯電話の振動音が響いた。直子はアラームを朝の7時と夜の11時にセットしている。いまのアラームは夜のものだ。携帯を手に取り、いつものように作業を始めた。カシャ、カシャ、カシャ。自分の裸を自分でとる。腕を使って胸を強調するポーズや脚をアップにした写真。口を開けて舌をつきだした写真には、目と鼻に黒い線をいれた。

(これで完璧)

 掲示板では直子のことを待っている人がいた。「なおちゃんまだー?」「そろそろ来る時間だよね」「おーい!なおちゃーん!」無数の書き込みに胸が高鳴る。

「お待たせーいま撮ったやつアップするねー」

 直子が1枚の写真と共に書き込みをしただけでたくさんのレスポンスがある。もっと欲しい、かわいいね、もっと見せて…どんどんレスが増えていく。この掲示板にいる男たちは無限の欲求を持っている。欲求が尽きることは決して無い。直子はただそれに応えるだけの、女という存在。直子は自分のことが嫌いだが、自分の体に価値があることはよく知っていた。年齢的にもそうだし、肉体もなかなか美しかった。直子は自分の体を嫌っていながら、それを欲してくれる男たちに対しては惜しげも無く体をさらすのだった。