水槽の中のわたし

「もう、みーちゃんと一緒に死のうか」ママは言った。「何にも良いことが無いもの、私ばかり損してる…」

「死んだって良いことないよ」

ママは答えずに、時計をみつめていた。明日は月曜日だから仕事のことを考えているのかもしれないし、秒針の音が気に触るのかもしれない。私は、これ以上彼女と話していたらおかしくなると思って自分の部屋に逃げ込んだ。「ドアを閉めて!」金切り声が聞こえるけれど、無視した。一刻も早く自分の部屋に入って自分の空気で満たされないと、おかしくなってしまう。

さっきまで躁うつ状態だった私の部屋は少し荒れていた。鼻水をかんだティッシュが散らばり、アイフォーンからは大音量で妙に明るい歌が流れていた。枕は涙とよだれで濡れていた。

日曜日は決まってこうなる。月曜日がこわくてたまらないから、泣く。泣いている間は、自分に同情して少し楽になれるのだ。私は自分が泣いているときが一番好きだ。泣いていれば誰かが同情してくれるし、泣いているときの私は本当に悲しくて泣いているので、自分自身でもかわいそうだと思える。かわいそうな私はもっと苦しめばいいと思う。たくさん泣いて、泣き疲れて眠ってしまうことができればしめたものだ。明日のことを考えなくて済む。最悪なのは目が冴えてしまったとき。もうこんな時間だ、はやく寝ないと起きられない。わかっていても眠れない。眠れないからいろんなことを考えてしまう。これからのことを考えるときが一番こわい。将来のこと。

さっきママがああいうことを言った責任は私にあると思う。ママはそんなこと今まで言ったことが無かった。でも私が泣いたりわめいたりするから、ママも私と同じで死にたくなってしまったんだと思う。ママごめんねと思う気持ちと、なぜそんなことを娘に言うのかという、怒りまではいかない戸惑いが胸にわいてくる。

強くなりたい、強い心が欲しい。いや、そんな贅沢は言わない。普通の心が欲しいと心底思う。

私はすっかり万年床になってしまっている布団に寝転がって、先週みた金魚のことを思い出していた。金魚展の金魚はいろんな形の水槽にいれられて、色とりどりの照明の中で美しく輝いていた。夜店のような楽しげな雰囲気の中、赤く輝く金魚、青く照らされる金魚。いつか観た映画のセリフを思い出した。

「金魚は川へ戻ると三代経ってフナになる。美しくいられるのはこの水槽の中だけさ」

私もママという水槽に守られて暮らしたい。少女のままでいられたらどんなに楽だろう。

 

 

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アートアクアリウム展きれいでした。金魚、美しかった。