おおきくなりたくありません

すきなものはたくさんあります。苦手なものはこころのほつれ。

 待ち合わせ場所はいつものコンビニだった。いつもと言っても菜摘は引っ越してからそのコンビニには全く行っていなかったのだが、中高時代によく待ち合わせした名残からか、咲からのLINEには<いつものコンビニで>と書いてあった。雑誌の立ち読みをして時間をつぶしていると後ろからパーカーのフードを軽く引っ張られた。振り向くと咲が笑っていた。

「ひさびさじゃん、元気してた?」

「ひさしぶり!元気元気!咲ちゃんは?」

「うん、ちゃんと仕事してるし元気だよ」

二人は世間話もほどほどにコンビニの外へ出た。今日は洋服を買いに行く約束なのだ。咲がコンビニの前にとめてあった自転車の荷台を指さした。乗って、ということだ。昔からよく二人乗りをして街に出かけていたことを思い出して菜摘は顔がほころんだ。

「わたし、大学入ってから結構重くなったけど大丈夫かなぁ」

「大丈夫、昨日も男乗せたし」

「彼氏?」

「ちがう」

菜摘が荷台に乗ると咲は慣れた様子で自転車をこぎはじめる。菜摘はぎゅっと咲のコートをつかんだ。今日の咲はずいぶん派手な服装をしていた。薄い黒タイツにショートパンツ、前に会った時より茶色い髪の毛、ピアス、襟の部分がもさもさとファーでおおわれている真っ黒なコート。7センチ以上ありそうなヒールで菜摘を乗せた自転車をこいでいる。

「あ、ごめん」

自転車がガタンと揺れた。咲の背中に菜摘の顔がぶつかる。菜摘の嫌いなにおいがした。たばこだ。菜摘が世界で一番嫌いなにおいだから、すぐにわかった。咲がたばこを吸うなんて知らなかった。いや、まだわからない。誰かが吸ったにおいがコートにうつったのかもしれない。

「菜摘、ついたよ。どうかしたの」

ずっと黙っていることを不信に思われたらしい。菜摘はなんでもないと首を振った。

 女友達というものは、「洋服を買いに行こう」と言う誘い文句があるのが素敵だと、菜摘はいつも思っていた。遊びに行こうでもカラオケに行こうでもなく、洋服を買いに行こうというのは自然だし、新しい服が欲しいという目的があると誘われる方も変に気負わなくていい。

「これかわいくない?」

「あ、いい感じ。いまボーダー流行ってるし」

「だよね。買おうかな」

いま流行っているものについて情報を交換したり、少し変わった服を試着してはしゃいだりするのはとても楽しかった。けれど菜摘はふとしたときにいろんなことを考えてしまう。自転車に乗せた人って誰?ピアスの穴増えてない?たばこ、吸ってるの?

「いやー買った買った」

「疲れたねー、なんかお茶でも飲む?」

「飲む」

咲の一声でカフェへと向かう。菜摘はホットココアとドーナツを、咲はコーヒーとチョコパイを頼んだ。

「はー!暖まるねぇー」

「今日まじ寒いもんね」

「うん、やばい。寒すぎ」

咲の目線がちらちらと泳ぐ。

「咲ちゃん?」

「ごめん、ちょっと一瞬喫煙席行ってくるね」

「あ、わかった…」

ガラスのドアの向こうで、咲が細長いたばこを吸っているのを菜摘はココアを飲むふりをしてずっと見ていた。口からはかれた白い煙が一瞬で消えていく。じっと眺めていると煙がスローモーションになって、ゆっくりゆっくり空気に混じっていった。戻ってきた咲はたばこくさく、菜摘には別人みたいに見えた。見えない煙が咲の体を薄くまとっていた。