人間でなくなることがこわい

人間でなくなることがこわい。

 

近頃の私はおかしい。鼻がきいて仕方ないのだ。きれいなお姉さんがつけている香水も、自分で買ってきたディフーザーも、犬の糞も全てくさいと感じてしまう。においに敏感で、他の人がわからないにおいまでわかってしまう。

今日のお昼、気づいたら私は耳がよく聞こえるようになっていた。携帯電話のバイブ、赤ん坊の泣き声、犬の鳴き声、たくさんの音がうるさい。あんなに大好きだった音楽も聞けなくなってしまった。

そして、私は想像してしまう。

いま何が起こっているのか?虐待、暴行、誰からの電話だ、悪い知らせか、この音楽は私が元気な時に聞いていた音楽あの時はたくさんの人の前でライブだってできたのに今は家から出ることすらままならない。

 

ひとつのことから私は想像してしまう。この想像は私を動けなくする。頭がパンクしそうに痛い。私は動物になってしまう。私は虎になるのかもしれない。山月記のように。山月記の彼のように虎になってしまうかもしれない。今なら彼の気持ちが少しわかる。姿が虎になったとて、人間の心や考えがあるから生きていける。それが無ければ姿が人間だとしても生きてはいけない。私は心まで虎になってしまうことが恐ろしくてたまらない。人間のままでいたい。

鼻、耳、その次は目か舌か。私は動物になっていく。もしかしたらそれが本来の姿なのか。これが本当のお前だとつきつけられることが何よりもこわい。私は人だ、人間だ。