緑という少女
カレンダーを指でなぞって日にちを数えてみる。5日遅れ。まだ、きていない。毎月のそれは緑にとってとても大事なものだった。生きている証。自分が女である証。どうしてこないのか考えてみても確かな理由はみつからない。まだ男性を知らない彼女が妊娠しているはずもない。
女の体は不思議なもので、ストレスか、ホルモンのバランスがくずれて何週間もこないことだってある。10代の少女がそんなに気に病むことはないのだ。
しかし、緑はそれを欲していた。彼女にとってそれは証だから。下腹部の痛みや、下半身の不快感なんて二の次で、毎月の証は緑にとってかけがえのない”生きている証拠”なのだ。経血はだらしなくたれて便器の中を汚すが、それは緑にとってたまらない快感だった。
私は生きている!生きている!生きている!
血を見ると緑はほっとした。血はたくさん出るほど良かった。自分の腹の中で、こんなに大量の血が作られているなんてなんだか誇らしかった。緑は、血を作っては出し、作っては出し、という作業を毎月繰り返す体に表彰状をあげたかった。
それから1週間がたち、トイレで下着の汚れに気づいた緑は興奮した。
今月もまたきてくれた。遅かったけれど、ちゃんときてくれたのね。
綺麗な下着に着替え直した緑は、お腹を大事そうになでた。赤ん坊がいるような気がした。けれど、妊娠してしまえばその間は血を見られなくなってしまう。
だから、私は妊娠なんて絶対にいや。それに、自分のような子が生まれると思うと想像しただけでいやになる。子どもが欲しいなんて簡単に言う男は、卵でも育てていればいいのよ。
彼女の心には小さな彼女が宿っている。