冬が終わるまでに
11月が来て、毎日楽しすぎることも辛すぎることもなくて、普通ってこういうことなのかなって日々。
笑い声の大きい同級生、授業のつまらない先生、席を詰めてくるおばさん。気に障ることもたくさんあるけど、冬の始まりの冷たい空気は、張り詰めていて、何もかもを美しく見せる力がある。
まあ仕方ないか、と納得してしまうような冷静な冷たさ。
君の存在は相変わらず遠くて、私のとなりには誰もいない。君のとなりにも誰もいないはずなのに、美しく強く見えるのはなぜだろう。
ねえ、あの子があなたを好きだって知ってる?
あの後輩があなたをかっこいいって評してたよ。
全部教えたあと、耳元でささやきたい。
「でも誰よりもあなたを知ってるのは私。私、あなたに一番を全部あげる」
一番好きも一番嫌いも、私を一番泣かせるのもあなた。
冬が終わる前に、私に気づいて。
じゃないと、溶けて死んじゃう。
女神のセックス
あんたさあ、アレって本当なの?アレだよ、あの男としたって話。
まあ本当だね。
なんで?なんでなわけ?よりによってって感じじゃん。何を考えてるのよ。
何をって、別に私なりに、まあ、してもいいと思ったというか。むしろしたかったのよ。
どうしてあいつなわけ?あの人が他の女の子と遊んでるのも知ってるはずじゃん。大体、彼女と付き合う前から他の女の子と天秤にかけてさ、そういうの間近で見てきたはずでしょあんたは。
間近で見たきたからこそよ。あの人も、ようやく遊ばなくなってきたから。
はあ?去年だって山本とやってたじゃん。その話してたのあんたでしょ。
でも、それはもう終わったし。私にも、大体わかってきたから。
何が。
彼はね、もうモテないよ。かつてほどの魅力はないもの。容姿は衰えるし、ありあまるほどのお金があるわけじゃない。彼はもう、第一線の人間じゃないの。それをあの人自信がわかってきてる。だから過剰な自信ももう無い。もうすぐ、あの人には何も無くなっちゃうの。
それと、あんたとあいつがしたことと何の関係があるわけ。
女神になるのよ、あの人の。傷ついたあの人の、女神になるの。私は最後の女になりたいの。美しくも強くもなくなった、本当は何の魅力もない空っぽなあの人の、女神になるのよ。それは私にしかできないし、私ならできることだと思うの。そのために、見てきたんだから。
…女神になってどうするのよ。
あの人の子どもを産むのよ。その子はきっと天使みたいに愛らしいわ。私はその子をあの人みたいに育てたいの。
あんた、意味分かんないよ。おかしくなっちゃったわけ?
おかしくなんて。あの人に比べたら私は普通よ。でも、あんな空っぽな狂人と暮らせるのは私だけだから。
彼女の携帯が震える。いや、もしかしたら震えていたのは私なのかもしれない。おそらくあの男からのメッセージだろう。女神?何を言っているんだろう。あんたは誰よりもあいつを憎んでいたじゃないか。殺したいって言っていたこともあった。なのにあいつのところに行くんだね。結局あいつの一人勝ち。女神?あんたは既に女神だったよ。愛すべき女神。でも今日からあんたは一番憎い女神になった。醜くなれ。お願いだから、早く醜くなってくれ。その男と共に、見えないところに羽ばたいていってくれ。
まだ出会っていない誰か
物語と戦う私たちはいつも主人公
にはなれないまま走っている。汚
れた血を抱えてまだ出会っていな
い誰かをさがしているけど、どこ
にいるのか、本当にいるのかもわ
からない。ほとばしる汗も瞳の輝
きも全部嘘で、吹く風だけが本物
なんだ。君をさがしている。大声
で呼んでいる。返事も聞こえない
のに、また走っている。大切にで
きるかもしれない、まだ出会って
いない誰かをさがすため。